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広瀬正『ツィス』『エロス』(集英社文庫)

『ツィス』。神奈川県で謎のツィス音(二点嬰ハ音)が人々を苦しめ始めた。特集するテレビ番組とツィス音教授が活動するなか、デザイナーで耳の聞こえない榊英秀と彼女のオイネは…。ツィス音の「レベル1」から始まって「レベル0」で終わる構成は綺麗。だが…

広瀬正『マイナス・ゼロ』(集英社文庫)

時間SFの傑作というウワサだったが、これが本当に大傑作だった。昭和20年の世田谷の少年が30歳になった昭和38年に、あこがれのお姉さんとタイムトラベルで再会するが、間違って昭和7年に戻ってしまう。世田谷の梅ヶ丘とか、昭和7年の銀座4丁目界隈とか、時代…

上念司『デフレと円高の何が「悪」か』(光文社新書)。超おすすめ。「モノとお金のバランス」を調整するのが経済政策であり、お金が不足するデフレ、その副産物としての円高が、どのように甚大な悪影響をもたらすか(現にもたらしているか)が、きわめて分…

陳舜臣先生『儒教三千年』(中公文庫)を読んで、中国史における殷の特異性と重大な影響力について、考えさせられた。殷の神権政治は周において儀礼化され、「礼」にもとづく政治が行われる。殷の末期、すでに生贄による人間の殺害は減少しており、殷周革命…

テイラー『今日の宗教の諸相』(岩波書店)を昨晩読了。たいへん興味深い書物。ジェイムズ『宗教的経験の諸相』を批判的に読解し、あくまで個人の宗教体験に照準する(プロテスタント流の)彼の方法論が、今日的な宗教経験の有り様を浮き彫りにする点で有用…

佐伯啓思『ケインズの予言』(1999)。「……金本位制のもとでは、理論的には、貿易の不均衡つまり国際的な不均衡は、国内の物価の変動によって調整される。つまり、国際均衡を達成するために国内経済の安定性が犠牲にされる。……金本位制のもとでは、絶えず物…

宮崎市定『中国の歴史9 清帝国の繁栄』(中公文庫)。宮崎の清代史研究は、1938年夏に開設された近衛文麿内閣直属の国策機関、東亜研究所への参加が機縁であったという。少数の異民族が、漢民族をいかによく統治しうるか、という問題意識の実践性について思…

谷川稔『国民国家とナショナリズム』(山川出版社)。 「プロイセンによる統一は、「自由・平等・友愛」といった普遍的なシンボルを掲げておこなわれたのではなく、逆に自由主義や民主主義の波及を封殺する王朝連合のかたちで実現した。プロイセンはその群を…

村上春樹『1Q84』

「BOOK2」を読了。「物語による世界の回復」がテーマ。 『海辺のカフカ』では、記憶喪失のナカタさん(「記憶がなくて現在だけ」)と、四国の図書館にいる母親(「現在がなくて記憶だけ」)が配置され、性的なものと暴力的なものとが訪れることで(ジョ…

岡崎京子『カトゥーンズ』(角川書店)。ほぼ読み終えたと思っていたので、未読の本を見つけて、ちょっとうれしかった。すれちがう人々の日常の断片。「私達はそれぞれの人生の主人公であり、他人にとってはワキ役であり、そしてそれは同時に起こり得ること…

岩本茂樹『教育をぶっとばせ』(文春新書)。関西の定時制高校の報告。 教育は生徒を「保護」すると同時に、「自立」を促すパラドキシカルな営み。たとえば「自立」の側に立つなら、違反に対応するのに教育の論理は必要なく、法的基準を適用すればそれでよい…

「あたしは父が好きだった。なぜなら、父があたしを一番大事にして、可愛がってくれたからだ。誰よりもあたしの能力を認め、あたしが女に生まれたことを残念がってくれた。」(『グロテスク』下巻、254-255)「ありとあらゆる男の欲望を処理することは、男の…

桐野夏生『グロテスク』上巻。東大卒の父親に支配されている和恵の痛々しさがたまらん。冷静で客観的な「わたし」の語りがいきなりヒステリックな調子を帯びるのもオシッコちびりそう。女は怖い。女同士をつるませてはならない。