佐伯啓思ケインズの予言』(1999)。「……金本位制のもとでは、理論的には、貿易の不均衡つまり国際的な不均衡は、国内の物価の変動によって調整される。つまり、国際均衡を達成するために国内経済の安定性が犠牲にされる。……金本位制のもとでは、絶えず物価水準が変動するために、企業も人々も確かな経済計算ができないのである。」(46)「実際に十九世紀のイギリス経済がこの問題を回避して成長できたのは、とりわけ英連邦の諸国への資本投下がそれら諸国の経済を支え、結果としてイギリスからの輸出を増大させ国内経済への投資を導いたからであった。」(54)

ところが二十世紀に入るとこの条件がうまく機能しなくなる。……第一に、貨幣賃金が硬直化する。……第二に、植民地構造そのものの変化によって、英連邦への投資が必ずしもかつてのように輸出増加、国内投資の活性化をもたらさなくなる。そして第三に、イギリス経済そのものがいわば成熟期に入り、もはや活発な投資意欲をもたない。……
金本位制に基づく自由市場主義のもとでは、貿易収支が赤字のときには、通常、賃金、物価の下落によって国際均衡が回復する。しかし賃金が硬直的となると、物価の下落は企業の業績悪化を招き、投資意欲を低下させ、失業の増大をもたらす。この場合、投資の低下によって一般的には利子率は低下すべきであるが、利子率の低下は資本の海外への流出を招き、ますます国内のデフレ傾向に拍車をかけるだろう。したがって、政策当局は金利を高水準に維持することを強いられるのだが、このことはいっそう国内投資の減少をもたらすだろう。こうして新しい二十世紀の経済のもとでは、イギリス経済は、もはや金本位制のもとでのグローバリズムと国内経済の安定を両立させることはできなくなってしまったのである。(55)

資本所有と経営の分離によって企業が大規模化し、労使交渉が賃金の硬直性をもたらすようになった社会条件が、金本位制とマッチしなくなった。というのも面白い。