「あたしは父が好きだった。なぜなら、父があたしを一番大事にして、可愛がってくれたからだ。誰よりもあたしの能力を認め、あたしが女に生まれたことを残念がってくれた。」(『グロテスク』下巻、254-255)「ありとあらゆる男の欲望を処理することは、男の数だけ世界を得ることだ、たとえそれが一瞬だとしても。あたしは嘆息した。勉強でも仕事でもなく、男にあの液体を吐き出させることが世界を手に入れるたったひとつの手段だったのだ。」(下巻、358)
「女として上手く生きられないあたし」(和恵)は「あたし自身を損ね」ることで、世界に復讐する。疎外された女たちの混乱と憎しみ。混乱と憎しみを自ら意志し引き受ける以外にこの疎外を克服する道はない。その先にはユリコがいる。「私の意志は心の中にしかない。それは決して外に出ない」(上巻、256)。だから、その限りで、自由なのだ。