岩本茂樹『教育をぶっとばせ』(文春新書)。関西の定時制高校の報告。
教育は生徒を「保護」すると同時に、「自立」を促すパラドキシカルな営み。たとえば「自立」の側に立つなら、違反に対応するのに教育の論理は必要なく、法的基準を適用すればそれでよい。しかし法的原則を貫徹する場合、法以外のルールは不必要なので、服装だの、頭髪だの、細かいルールは導入されないことになる。このようなルールなしには学級(学校教育)が維持されないと考えられる場合には、「保護」の論理が持ち出され、これが「校則」となるわけであるが、しかしこの「校則」は「自立」の論理と衝突するわけで、要するにパラドキシカルな循環が生じるということになる。
こうしたパラドキシカルな力学を孕んだ学校空間を、そのようなものとして貫徹させるための、パラドキシカルであるがゆえに一意的な正答の存在しない解答への試みが、本書の内容。方法論的に主観的な立場性が貫かれているので「岩本先生」の提示する「解答」のすべてには納得できないし、唐突に「これが教育だ」というような主観的基準が示されるなどの混乱も感じたが、思考を発展させるネタの宝庫ではある。ただし定時制の生徒が、ここまで反学校文化に染まっているのに、なぜあえて定時制という学校空間にこだわるかの主観的解明がなされていないし、他の先生の対応が他罰的な評価で裁断されており、その内的な意識構造に対する合理性が追求されていない点が不満。