小栗康平『死の棘』(1990)

(114分・35mm・カラー) 原作→島尾敏雄 夫の浮気が原因で精神錯乱の状態に陥って狂乱を繰り返す妻。戦後文学に独自の地位を占める島尾敏雄が書き継いだ、運命的な男女の非日常的結びつきに発した“夢の中での日常”は、抑制された静謐なスタイルで日常的映像に移された。カンヌ国際映画祭で「グランプリ・カンヌ1990」受賞作。
'90(松竹=松竹第一興行)(監)(脚)小栗康平(撮)安藤庄平(美)横尾嘉良(音)細川俊夫(出)松坂慶子岸部一徳木内みどり、松村武典、近森有莉、山内明、中村美代子平田満、浜村純、小林トシ江 (FC)

『泥の河』以外の作品は見たことなかったけど、小栗康平って、こんなに迷走してたんだね。いや、そもそも人生なんて迷走そのものみたいなもんだから、別に迷走してたっていいわけなので、これは「迷走」じゃなくて「見当外れの暴走」というのが正しいね。その走っているところ、道じゃないですよ、っていう。
見所といえば、松坂慶子のおっぱいくらいなもんだが、松坂慶子のおっぱいなら、別にこの作品で見なくたっていいや、というのがいっそう哀しい。でもこの責任は、島尾敏雄にも負ってもらう必要があるし、さらに根本的なことをいえば、そもそも近代日本の文学者が、ある面において、いかに下らなかったか、ということでもある。たぶん。