増村保造『盲獣』(1969)

(84分・35mm・カラー)目が見えない彫刻家・蘇父道夫(船越)と、ファッションモデル島アキ(緑)の愛慾に満ちた世界を通して、表裏一体となった愛と死が描かれる。理想の女体、甘美な感覚に対する芸術家の異様なまでの欲求と執着を、船越は体当たりの演技で表現した。
’69(大映東京)(出)船越英二(蘇父道夫)(監)増村保造(原)江戸川乱歩(脚)白坂依志夫(撮)小林節雄(美)間野重雄(音)林光(出)緑魔子千石規子 (FC)

現在の感覚で評価すれば、増村保造は明らかに二流。近代日本において文芸趣味(教養主義)のゲタをはいていただけ。背徳的なものがそのまま先鋭的であるわけではなく、両者が等値される時代的文脈は、教養主義が与えていたにすぎない。しょうもない小説趣味はいまでも細々と存続していたりするが、全体としてセンスに欠ける。
ただし緑魔子船越英二はすばらしい。キチガイ。めくら。あまりに悪趣味になるラストまでの心理展開は(母親と息子と恋人の三角関係)、緑魔子の感性に支えられて、見るべきものがあった。