成瀬巳喜男『乱れ雲』(1967)

(108分・35mm・カラー)交通事故で最愛の夫を失った女(司)が、加害者の男(加山)に対して抱く憎悪と恋慕の情を描いた作品。成瀬巳喜男の遺作となった本作は、プロデューサーの金子正且自らが脚本の山田とともに十和田湖でシナリオ・ハンティングを行い、とりわけ積極的に関わった作品だという。
’67(東宝)(製)金子正且(出)村上冬樹通産省局長)(監)成瀬巳喜男(製)藤本真澄(脚)山田信夫(撮)逢沢譲(美)中古智(音)武滿徹(出)加山雄三司葉子草笛光子、森光子、浜美枝加東大介、土屋嘉男、藤木悠中丸忠雄中村伸郎 (FC)

交通事故で夫を失った司葉子と加害者の加山雄三は、互いに恋心を抱くようになる。青森での邂逅、酒に酔っての暴言、ライターの忘れ物、十和田湖に降る雨、加山の発熱。ひとつひとつをとってみれば不自然な設定のようにも思われるが、なんとなく自然に感じられるのはさすが。金と人間関係のしがらみの描写は成瀬一流の冴え。「ちょっと近くまでやってきたので」と賠償金を月賦で持ってくる場面など、人間関係が濃密だった昭和は遠い昔である。カラヤンラフマニノフを高級オーディオで聴いてます、みたいなBGMのゴージャス感もいかにも昭和的。酔って頬を赤く染めた司葉子の横顔、山菜採りの場面で加山に水筒のお茶を注ぐしぐさ、雷のなか手を握り合ったり、ラスト近くの旅館のシーンなど、メロドラマの魅力がすばらしかった。