フィリップ・リオレ『君を想って海をゆく』(2009)

WELCOME フランス映画 フランス語・英語・クルド語 110分 出演: ヴァンサン・ランドン、フィラ・エヴェルディ、オドレイ・ダナ http://www.welcome-movie.jp
17歳のクルド人難民ビラルは、ロンドンに住む恋人に逢うため密航するがフランス警察に逮捕されてしまう。ならばドーバー海峡を泳いで渡ろうとするビラルの無謀な挑戦をサポートする水泳コーチとの、フランスに難民問題をめぐる大論争を巻き起こした人間ドラマ!! (GH)

傑作。フランスのカレ。港湾の殺伐とした風景とドーバー海峡をうねる大波。イラクの戦乱を逃れてきたクルド人の男の子は、恋人を追って英国への不法入国を目論む。不法出国者の支援は法的禁止だが、手をさしのべる水泳コーチ。瀕死のユダヤ人をたすける善きサマリア人の構図。入国管理の役人はパリサイ派サドカイ派か。隣人の玄関マットにはwelcomeの文字。偽善。しかし重要なのは、誰もが偽善者になりえるし、かつ、人を裁く側に回りかねない、という事実の方だ。むしろ隣人愛へと突き動かされる動機こそが謎。ヴァルネラブル=隣人愛への回路、は確認できるものの、隣人愛が本質的に何であるは根本的に謎だし、むしろ積極的に謎でなければならないのでは、などと思いました。神の愛がなぜ無差別に注がれるのか、それはアウグスティヌス的解釈によれば一方的な恩寵だから。