黒澤明『八月の狂詩曲(ラプソディー) 』(1991)

(98分・35mm・カラー)村田喜代子芥川賞受賞作「鍋の中」を黒澤自ら脚色。長崎の祖母と孫たちの夏休みの交流を通して原爆の傷跡が描かれる。17日間で脱稿したシナリオをもとに、『夢』の完成後、異例の早さで撮り上げられ、世界最高齢監督の一人となった巨匠の新たな創作意欲を印象づけた。ハワイからやってくる甥をリチャード・ギアが演じたのも話題となった。
'91(黒澤プロ)(監)(脚)黒澤明(原)村田喜代子(撮)斎藤孝雄、上田正治(美)村木与四郎(音)池辺晋一郎(出)村瀬幸子、吉岡秀隆大寶智子、鈴木美恵、伊崎充則、井川比佐志、根岸季衣河原崎長一郎、茅島成美、リチャード・ギア (FC)

等身大の現代ドラマを今更やろうとしているのはすごいが、原爆体験の一種の定型的物語をなぞるかたちになっていて、こんなのでいいのか?と感じる部分がある。原爆に象徴される戦争体験の情念は、もしかするとこのような物語形式のうちに、もっともよく表現されうるものなのかもしれないが、やはり物足りない。ラストの詩的なイメージもそれ自体はなかなか素晴らしいが、きちんとハマリ込んでいるかは別問題だろう。ヴィヴァルディ「スターバト・マーテル」が素晴らしい。