マノエル・ド・オリヴェイラ『階段通りの人々』(1994)

A Caixa (96分・35mm・カラー)リスボンの街路を舞台にした群像劇。「すべての私の映画同様、『階段通りの人々』は人生から沸きだした特別な何かだ。それは貧しくて周縁にいる、ほとんど忘れられた人々の目を通した真の人間性のポートレイトだ。これは1920年代の映画、初期映画への回帰を示す映画なのだ」。
'94(監)(脚)(台)(編)マノエル・ド・オリヴェイラ(原)プリスタ・モンテイロ(撮)マリオ・バローゾ(編)ヴァレリー・ロワズルー(出)ルイス・ミゲル・シントラ、ベアトリス・バタルダ、フィリペ・コショフェル、イザベル・ルト、グリシニア・カルタン、ルイ・ド・カルヴァリョ、ディオゴドーリア、ソフィア・アルヴェス、ドゥアルテ・コスタ (FC)

リスボンの町並みを楽しみにして雨の中駆けつけたら、階段通りのみが舞台だったのでがっかりした。演劇っぽい筋立てで、映画としてはまあまあ良かったと思うが…。シューベルトアヴェマリア」をギターで演奏する大学教授が出てきたり、バレエを踊る妖精みたいな子どもたちが現れたり、音楽が美しく使われている。
めくらのオヤジの喜捨箱のまわりを貧しいひとたちが囲んで、この箱をめぐって思いも寄らない事件が起こるのだが、乞食・障害者・街の荒くれ者などが社会的・宗教的にどういう存在であるのかが分からないと、基本的には理解しがたい部分が残るのではと思った。ヨーロッパ的あるいはカトリック的な文脈を抜きにして、成瀬映画のように貧者に感情移入しても仕方がないし、バーのオヤジがギターのおじさんに「ここが私の教会だ」と言ったり、アヴェマリアが流れたり、神がどこかに隠れている感じが不思議であった。