財布から発掘した百貨店の商品券がボロボロでやばかったので、大丸の書籍売り場で、加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日書店)を購入。逃避読書で、武士はややこしくて大変だ、と心底思う。アイデンティティ危機に陥った江戸時代の武士たち。
「武士同士の「左様でござるか」式の堅苦しい言葉遣いと勿体ぶった礼儀作法の背後には、相互に恥をかかせることへの恐怖がある。軽い身分の武士であっても、理由の無い屈辱を与えれば死に物狂いで刀を抜いて攻撃していくる可能性がある(そうしないと、後で当人が苛酷に処罰されうる)。そのようないさかいは避けたいのが今や多くの武士の気持ちだったろう。そこで、誇り高いはずの武士であるからこそ、言葉は慎重、行動は細心にならざるをえないのである」(44)。「抜刀して走って来る者に道で行き会ったらどうすべきか。傍観してやりすごせば、後で臆したかと言われかねない。しかし、こちらも抜けば何が起きるか解らない。そこで、通しておいて、後から「其分にては置がたし」と言って追いかけてみせよというのが一つの説だった(『葉隠』十一)」(45)。「こうして「武士道」は、ほとんど武士らしさを偽装する演技と化した。それは武士身分全体が陥った奇妙な体制的ディレンマに由来する、空虚で、しかも止めるわけにはいかない真剣な演技だった。」(渡辺浩『日本政治思想史』東大出版会、45)