オリバー・ストーン『アレキサンダー』(2004)

出演: コリン・ファレルアンジェリーナ・ジョリー ,ヴァル・キルマーロザリオ・ドーソンジャレッド・レトアンソニー・ホプキンス ジョナサン、アメリカ (173分)
若くして史上最大の帝国を築きあげたマケドニア(現ギリシャ)の英雄アレキサンダーの生涯を、「プラトーン」のオリバー・ストーンが映画化した歴史大作。/若き日にアレキサンダー王に仕えたエジプト王プトレマイオスは、32歳で早世したアレキサンダー王の生涯を語り始める。アレキサンダーは紀元前3世紀にマケドニア王フィリッポスとその妻オリンピアスの子として生を授かった。だが、夫妻の間では確執が絶えず、アレキサンダーは友人たちとの親交に救いを見出していた。そんな折、フィリッポス王が暗殺され、アレキサンダーは弱冠20歳で王位に就くこととなる。アレキサンダーは軍事において比類なき才を発揮、西アジアへ遠征し勝利を収めた。そしてエジプトの王となり、遂には世界最強とまで謳われたペルシア帝国すらも壊滅させるに至る。だが、長年の遠征は周囲との軋轢を生む結果ともなり、アレキサンダーは孤立を深めていき・・・。(東京芸術センター)

フィリッポス2世の野望を引き継ぎ、アリストテレスの教えを頼りに(インダス川ナイル川に通じ、インドからアレクサンドリアに帰還できるとする地理的知識)東方遠征に繰り出したアレキサンダーは、アケメネス朝のダレイオス3世との戦いを経てバビロンを陥落し、スサを占領する。このあたりまではまあイケイケなのだが、ヒンドゥークシュ山脈を越えて、ソグディアナでアジアの娘と結婚し、インドに到達する頃には、兵士の数は激減するわ士気は下がるわで、もはや何のために遠征をしているのか、誰にとっても分からなくなってくる。
アレクサンダーの情熱を共有することは、もはや普通の兵士には不可能でしかない。冷静に見れば見るほど、たんなる愚行にしか映らない。最善を尽くす英雄がそれとは気づかぬ間に(神に挑戦する)傲慢に陥り、その偉業の高みにおいて、神々から復讐される。ヘラクレスの血を継承するアレクサンダーは(王妃オリュンピアスはゼウスと交わってアレクサンダーを生んだと思い込んでいた)、ギリシア神話の英雄の姿をみずから再演することになってしまうわけだ。
この辺の事情は、父王フィリッポス2世との絡みで描写されていて、なかなか上手い。フィリッポス2世は娘の結婚式がらみの祭典で暗殺されてしまうのだが、ショックを受けたアレクサンダーが駆け寄ると、彼は自分の息子を疑いの目で睨み付けながら死んでいく。王は孤独なのだ!!アレクサンダーの母である王妃オリュンポスとは別に、フィリッポスはマケドニアの高貴な血を引く別の王妃との間に子どもを設けたばかりであり、王位をめぐってオリュンポスとアレクサンダーは微妙な立場に置かれていた。王の死はアレクサンダーにとって好都合であり、また蛇を敬う神秘思想にイカれていた王妃オリュンポスは(アンジェリーナ・ジョリーが好演)、その夫婦仲からして王を暗殺する十分な動機を備えていたのである。
簒奪された王位は、ふたたび簒奪される運命にある。王への恭順は見せかけでしかなく、王は猜疑心に駆られるか、無根拠な高慢を増幅させるかしかない。王は、もっとも道化的な存在へと転落していく。
英雄(王)が神から復讐され、もっとも惨めな存在となるという逆説、しかしこの逆説はさらに反転するのであって、インド象に立ち向かうアレクサンダーの姿には、愚行の極みに宿る神々しさが満ちている。まるで、内田吐夢宮本武蔵』の一乗寺下松の決闘シーンのようなピンク色だった。ほとんど神であるが、しかしやはり人間でしかない。取るに足らない人間が同時に神のようでもある。伝記的事実にかなり忠実で、ひじょうに素晴らしかった。オリバー・ストーン、good jobである。