ダーレン・アロノフスキー『レスラー』(2008)

THE WRESTLER、109分、脚本 ロバート・シーゲル、出演 ミッキー・ロークマリサ・トメイエヴァン・レイチェル・ウッド、マーク・マーゴリス、トッド・バリー、ワス・スティーヴンス、ジェダ・フリードランダー、アーネスト・ミラー、ディラン・サマーズ
2008年ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞受賞/2008年アカデミー賞主演男優賞ミッキー・ローク)・助演女優賞マリサ・トメイ)ノミネート/2008年ゴールデン・グローブ賞 主演男優賞・主題歌賞受賞、助演女優賞ノミネート/インディペンデント・スピリット賞 作品賞、主演男優賞、撮影賞受賞ほか多数受賞 http://www.wrestler.jp/

何をしても不器用なランディ(ミッキー・ローク)にとって、80年代、プロレスだけが輝くことのできる唯一の場所だった。しかし20年後、身も心もボロボロとなった彼は、疲弊しきった澱みのようなものを全身に漂わせている。いまや過去の栄光すらも自身のイタさを際立たせる材料でしかなく、過去の人気と伝説をネタに続けられる興行は、プライドを叩き売る自傷行為に成り下がっている。町の様子も含め、荒涼とした悲惨が満ちている。
ランディは気の良い男であるが同情の余地のない性格破綻者でもあって、娘やストリッパーの女性との付き合い方を見ても、自分で自分に傷つき続けているようにしか映らない。しかし最もヴァルネラブルな存在が最も高貴に光り輝くというニーチェ的逆説は、映画のラストで感動的に示される。「USA!USA!」という観客のかけ声は、アメリカの疲弊を暗示するかのようであり、ブルース・スプリングスティーンは国民歌手のようで、泣ける。