「金融緩和をしても円キャリによる投資行動が起きるので、効果は相殺される」という理解はまちがっていると昨日書いたが、「資本流出でマネーサプライが減少することはないのは、円は海外では使えないのだから当然だ」と説明されただけでは分からないという人もいるだろうと思うので、以下で説明する(笑)。
「国際収支については、「日本からの資本流出によって日本から外国へ円が流出するので、マネーサプライ(略)が減少し、金融引き締め効果が生ずる」といわれることがある。しかしこれは誤解であるので注意しよう」(岩田規久男『国際金融入門 新版』、2009:51)。
円キャリは「円で外国投資をおこなう」ということなので、具体的事例として、「日本の生命保険会社が米国債を買った場合、円のマネーサプライがどうなるか?」というケースを考えてみよう。(「円をベースとする経済主体が、外国資本を運用するとどうなるか?」という点で、円キャリ取引の事例と本質的な違いはない。)
さて、日本の生保が米国債を購入する場合(=資本流出)、生保は日本の証券会社に購入を依頼し、その代金を円で支払うことになる。日本の証券会社はアメリカにある自分の子会社に送金し、その子会社からドル代金を米国国債の売却者に支払う。このような場合、為替取引はどうなっているかと言うと、最終的には、日本の証券会社の取引する日本の銀行(X銀行とする)と、米国にある日本の証券子会社が取引するアメリカの銀行(Y銀行とする)が、金融取引の仲介をするかたちになる。
「日本の証券会社がアメリカにある子会社に送金する」とは、日本の証券会社が日本のX銀行に円を支払い(かりに「一万ドル分の円」だとする)、それに応じてX銀行がY銀行(米)に「日本の証券子会社に対して一万ドル支払ってくれ!」と依頼することで実現される。また、Y銀行は「日本の証券子会社」に一万ドルを支払うわけだが、Y銀行には「X銀行のドル預金」が存在しており、Y銀行はX銀行からの依頼を受けて、一万ドルをこのドル預金口座から引き落とすことで、この取引を完成させることになる。

要するに、「日本の生保が米国国債を購入する」ケースで起こっているのは、「日本のX銀行が保有しているドル預金が減少する」という事態であって、円通貨がアメリカに流出しているわけではないことが、以上からわかる。
カネの動きを整理すると、生保がもっている円預金は、銀行部門から引き離されていったん証券会社に支払われるが、その証券会社の円預金は、証券会社が取引している銀行へと戻ってくるから、銀行にある円預金残高は変化しない、つまりマネーサプライは変化しない。要するに、「日本が米国債を買ってるから」といって、「国内の投資資金がなくなる」みたいなことは起こらない。もちろん、円キャリ取引でも国内のマネーサプライは変化しない。
改造内閣与謝野馨が「政策通・経済通」というのは全くの誤り。「与謝野を入閣させたのは賭だ」などとアホなマスコミは報道しているが、賭というのはプラスに転じる可能性があるから賭なのである。ピントがぼけている。