安達誠司『円の足枷』(東洋経済新報社、2007)。サブプライム前の景気回復局面の時論なので、状況が決定的に違いすぎているが、それでも理論・歴史分析などは面白い。再びデフレに舞い戻った「政治要因」もサブプライムとは別に必然的だと思われるし。フィリップス曲線の「水平部分」と「右下がり部分」を区別して、デフレ基調の脱却時点の議論をしているのがなかなか興味深い(流動性の罠から立ち直るのはけっこう大変)。
あとは、デフレを確認するうえで「信用乗数」がきわめて大事な指標であることを再認識(「マネーサプライ(M2+CD残高)/マネタリーベース(現金+日銀当座預金)」)。これは超べんり。信用乗数の変動要因として一番ウェイトが大きいのは「現金/預金比率」だと指摘されている。デフレ解消が予見されると、金融資産に占めるキャッシュの割合は、次のように低下しはじめる(=信用乗数が増大する)。

たとえば、個人が新興株式市場の株式を購入すると仮定しよう。この個人のキャッシュ(現金)は株式市場を通じて、株式を発行した新興企業の設備投資資金等に利用されると考えられる。この場合、この新興企業は金融機関の決済口座を通じて設備投資資金の支払い等を行うので、これは預金残高を増加させる。金融機関は預金として預かっているマネーを住宅ローン等で貸し出す。そうすると、そのお金は不動産業や住宅メーカーに流れ、これが再び金融機関の預金となる。このようなプロセスを繰り返すことによって、家系や企業がキャッシュポジションを低下させると、信用乗数が上昇し始める。(35・37)

いや、当たり前なんだけど、意外とこういうの、素人にはイメージしにくいんだよね。金融緩和してインフレ期待になっても、マネーサプライは増えません、とか断言する人も現れたりするしさ(とほほ)。
ちなみにこの本はインフレ目標設定において「円安誘導」を政策課題とすれば分かりやすくて良いんじゃないかという「スヴェンソン提案」を踏襲している。またマイケル・ドゥーリーという人が唱えた「新ブレトンウッズ体制」という概念は、初めて知ったけれど、「アメリカの経常収支の大幅な赤字+周辺国がファイナンス」という図式はサブプライム後、どう評価されているのか、ちょっと気になる。しかしチャイナが内需主導を始めたら国際的な貯蓄・投資バランスが崩れる(=アメリカの経常収支大赤字が立ちゆかなくなるかも)というのは、たしかにそうなりそうだ。