上念司『「日銀貴族」が国を滅ぼす』(光文社新書)。フレッシュな時事ネタの絶妙な構成、平易にかみ砕かれた経済学的説明(数値操作の妙)、おもしろおかしい語り口、意表をつく雑学的エピソードの挿入など、知的読み物としての完成度は、前作に引きつづき、相変わらずの素晴らしさ。日銀のダメダメぶりは、前作で啓蒙されたので既視感があったが、末法思想的「国債暴落」説、アルゼンチン危機の全貌、日銀のインフレ・トラウマの起源をたどる戦後日本経済史など、今回も目から鱗がポロポロ落ちまくった。
国債残高が大きすぎて国債売却→国債価格の暴落→金利上昇→ハイパーインフレ」という「末法思想」は、昔から、なんでそうなるのかいくら考えてもよく分からなかったんだけど、なぜ分からなかったかが分かったね。端的に謬説。政府には「徴税権」と「通貨発行権」があるから、企業会計的な意味でのバランスシートの債務超過はありえない。しかも日本が変動相場制を採用している以上、アルゼンチン危機のような事態は訪れるはずもなく、国債は100%償還可能。かりに海外投資家が投げ売りを始めたら(900兆の6%規模)、円建ての国債を自国通貨に換金する過程で54兆円もの円売りがおこなわれ、円安で輸出企業は大もうけ。また国債金利が上昇したら、金融商品としての魅力は絶大なものとなる。
「戦後日本は朝鮮特需で経済復興」という説が誤りではないか、という指摘も面白い。「レート割安説」というのがあって、ブレトン・ウッズ体制下での1ドル=360円の交換比率は、ほんとうは300円なのをおまけされたんだ、という話。日独伊の復興がスクラップアンドビルドで果たされた、とか習ったけど(シュンペーター式)、ちがうかもしれないわけだ。
参院選直前、菅がイタイことを言い始めてちょっとブルーだけど、とにかくこれは超おすすめ。いつかこの著者には、国際貿易ネタも書いてもらいたいなぁ。