園子温『愛のむきだし』(2008)

LOVE EXPOSURE(237分 ビスタ・SR) 原案・脚本 園子温、主題歌・挿入歌 ゆらゆら帝国、出演 西島隆弘満島ひかり安藤サクラ、尾上寛之、清水優、永岡佑広澤草、玄覺悠子、中村麻美渡辺真起子渡部篤郎板尾創路岩松了大口広司 http://www.ai-muki.com/
クリスチャンの神父(渡部篤郎)を父とするユウ(西島隆弘)は、亡母の教えどおりマリア様のような理想の恋人を探しているが、いつのまにやら盗撮魔になってしまう。そこに謎の女コイケが現れ、運命の女ヨーコ(満島ひかり)と出会ったユウ達を、カルト教団の魔の手に引き渡そうとする。ヨーコに合ってはじめて“勃起”を覚えた純真な少年ユウだったが、その愛の行方は…。

一神教のオキテの意味について考えさせられる。燃える柴となってモーセの前に現れた神は「わたしはある、あるという者だ」と述べたが、シナイ山の麓のユダヤの民は不安に駆られ、金の仔牛の偶像を崇拝した。一神教的超越性の前に人々は不安に陥り、まがい物の超越性を捏造する。ニセの神が増殖し、世界は混乱に突き落とされる。
愛する者は他者として現れ、愛はなかば不可能である。他者は、人間を不安に陥れる超越性を帯びている。人間はまがいものの超越性を捏造することで、ニセの愛を手に入れ、そのことで世界に混乱を招き入れる。ニセの愛に魅入られた邪悪な女(コイケ)は、主人公(ユウ)たちをカルト教団に誘うのだが、主人公の運命の女性(ヨーコ)は、そこで完全に洗脳されてしまうのである。
ユウはこの間違った世界(ニセの超越性が増殖した世界)を、もう一度、再生しようと考える。その方途が一種のテロ行為(ビル爆破!)というのだから、この設定はひどくラディカルである。しかし旧約の神の存在を想起しても、人間(社会)の不完全性への自覚こそが、超越性の回復のためには不可欠なのである。実際、ヨーコは、自身の不完全性(「ヘンタイ」性)を自覚してはじめて、本物の愛へと接近する。
4時間に及ぶ大作だが、まったく長さを感じさせない傑作。ボレロ、ベト7(「コリント信徒への手紙」第13章の長台詞)などの音楽も素晴らしいが、サン・サーンス交響曲第3番のアダージョが最高に素敵。精神病院のシーンは忘れがたい光景だ(西島と満島はすばらしい)。ただしカルト宗教の洗脳がらみの話は、映画の枠を逸脱する迫真性があって、やや異常な気配を感じる。ちょっと危険かもしれない。
http://www.youtube.com/watch?v=lNE7t5Of8uY&feature=related