溝口健二『西鶴一代女』(1952)

(136分・35mm・白黒)井原西鶴の「好色一代女」をもとに、封建的な男性社会に弄ばれた女の波瀾の生涯を描いた溝口健二の代表作。ヴェネチア国際映画祭で監督賞を受賞し、海外に溝口の名を知らしめるきっかけとなった。御殿女中から転落を重ね年老いた街娼へと成り果てる主人公・お春に扮した絹代の迫真の演技も伝説となっている。
’52(児井プロ=新東宝)お春(監)(構成)溝口健二(原)井原西鶴(脚)依田義賢(撮)平野好美(美)水谷浩(音)斉藤一郎(出)山根壽子、三船敏郎宇野重吉、菅井一郎、進藤英太郎大泉滉、清水將夫、加東大介、小川虎之助、柳永二郎、原駒子

再見だが田中絹代しょっぱなから反射している。だらしない男たちに裏切られるお春は、裏切られる痛みと悲惨の極致にあって、崇高な救済へと至る。クレーンの俯瞰ショットが素晴らしいのは、悲惨と崇高の一致が、この距離感において表現されるからに相違ない。その場の感情にとことん流されるはずのお春が、心の奥底でつよく凍結していた息子への思いを融解させるシーンの「無音」は、時間の流れを超越した異次元世界を鮮やかに開示してみせる。一切皆苦の世の中であってみれば、世を一顧だにせぬ情念のけじめなき肯定こそが、救済の道に通じる。圧倒的にすばらしい大傑作。