ジャック・リヴェット『ランジェ公爵夫人』(2007)

主演:ジャンヌ・バリバール、ギョーム・ドパルデュー、ビュル・オジエミシェル・ピコリ、マルク・バルベ、トマ・デュラン、ニコラ・ブショー
リヴェットが、文豪バルザックの原作を華麗かつ重厚に映画化。19世紀パリの虚飾に満ちた貴族社会を舞台に、狂おしい恋の行方を格調高く描き出す。ナポレオン軍の英雄モンリヴォー将軍がパリの舞踏会で出会ったランジェ公爵夫人。最初は恋愛遊戯のつもりで駆け引きを繰り返す二人だったが、戯れのはずがいつしか恋に身を焦がすようになり…。(CV)

ナポレオン戦争の余韻が残る復古王政期、ランジェ公爵夫人のコケットリーにやられたモンリヴォー将軍。社交の距離意識に亀裂が入るのだが、一方、ロマン主義的な恋愛感情は徹底的にすれ違う。障害ゆえに成就しない恋愛という意味では、中世の騎士道物語に近いけれど、しかし暗く沈鬱なトーンは、19世紀近代に特有の閉塞感で満たされている。高貴な昇華の瞬間は訪れず、ランジェ公爵夫人は「子供のころの絵本」のように海の藻屑と化す。七月王政二月革命の一歩手前、という時代設定が味わい深いし、眠ってしまいそうなほど静かで単調な感じもなかなか良かった。