西川美和『ディア・ドクター』(2008)

2時間07分、出演: 笑福亭鶴瓶瑛太余貴美子井川遥八千草薫香川照之 http://www.deardoctor.jp/
僻村で頼りにされていた医師が突然謎の失踪をした。驚いたことに村人たちは、慕っていた医師の素性を何一つ知らなかった……命の恩人か、ただの嘘つきか。「ゆれる」の西川美和監督が人間の本質を“生命”“いのち”に添わせて問う人間ドラマ!!(GH)

西川美和監督の巷の評価は高いのだが、ありえないと思う。ただしその理由がまったく分からないわけではない。この監督において、非凡な映像センスと極端な地頭の悪さが同居しているさまはひとつの謎と言うほかないし、地頭の悪さに由来するディテールの粗雑さを、ハッタリ満点の絶妙な映画的呼吸(間の取り方)で糊塗する能力は、ある意味で天才なのかもしれないとさえ思わせる。
「真実は誰にも分からない」という『羅生門』的主題をめぐって、笑福亭鶴瓶がとりあえず素晴らしい。鶴瓶映画だ、と言っておきたい。脚本のディテールに無数の突っ込みが入ることを別にすると、どの役者さんの演技も総じてすばらしく、とくに井川遥は「この人は本当に大器だよな」とクラクラするほどの存在感だった。井川遥の時代がやってきそうだ。