成瀬巳喜男『山の音』(1954)

(94分・35mm・白黒)不倫する夫(上原)に相手にされぬ嫁(原)と、彼女を不憫に思う舅(山村)の間の、淡い恋にも似た心の交流が描かれる。川端康成の小説が原作。あたかもロケーション撮影に見える路上シーンに使用されたオープンセットは、中古智ら美術スタッフの技術力の高さを伺わせる。
’54(東宝)(監)成瀬巳喜男(原)川端康成(脚)水木洋子(撮)玉井正夫(美)中古智(音)齋藤一郎(出)原節子山村聰上原謙杉葉子長岡輝子丹阿彌谷津子中北千枝子、角梨枝子、十朱久雄、北川町子、金子信雄 (FC)

秋の鎌倉、夫婦関係に問題を抱えた原節子。これで舅の山村聰笠智衆だったら、完全に小津映画。しかし上原謙は酒乱、DV、不倫の冷血人間で、彼に振り回される周りの人間が、なぜ彼を見限らずに振り回されたままなのか、ほとんど理解しがたい。その意味で失敗作だと思う(嫁と舅の恋?納得できないな)。他者理解への動機を欠いているとしか思えない無神経発言(ぺちゃぺちゃよく「舌の回る」妻と娘)の数々は面白かったが、他者理解に動機づけられないのは、「以心伝心」がアタリマエの昭和社会であったればこそではないか、などと考える。昭和的無神経、というものは確かに存在したように思われる。