沖浦啓之『ももへの手紙』(2012)

声の出演:美山加恋、優香、西田敏行山寺宏一、チョー
「ももへ」とだけ書かれた手紙を遺し、お父さんは天国に旅立ってしまった。「ほんとうはなんて書きたかったの?」心ない言葉をぶつけ、仲直りしないまま父を亡くしたももは、その想いを抱えたまま、母・いく子と瀬戸内の島に移り住む。そこで出会ったのは、不思議な妖怪「見守り組」。食いしん坊でわがまま、でも愛嬌たっぷりの彼らには、実は大切な使命があった……。(bald9)

最近、何かと観光資源としての瀬戸内地方が注目されているが、たしかに瀬戸内海の風光明媚は、それだけの価値がある。自分にとって瀬戸内海とは、天保山発高松行きフェリーであり、室津港いかなごであり、大林監督の尾道三部作であるが、この作品も魅力たっぷりであった。例えば、細田守監督の『サマーウォーズ』なんかよりも、土地固有の具体的な感触を丁寧に描出していて、非常に好ましい。黄表紙の中から妖怪が出てくるのも違和感がないし、ももの曾祖父は柳田国男に似ていた気がする。台風の中、ももが走り出すのは危ないし、誉められた行為ではないが、粘菌みたいなのがいっぱい出てきて、もも達を守るのも、面白かった。粘菌と言やぁ、南方熊楠翁である。夏に公開するのがベストだったかも。