タル・ベーラ『ニーチェの馬』(2011)

A Torinoi lo ハンガリー・フランス・スイス・ドイツ合作映画
「倫敦から来た男」で知られるハンガリーの名匠タル・ベーラが、ドイツの哲学者ニーチェの逸話を題材に荒野に暮らす男とその娘、一頭の馬のたどる運命を描く。1889年、イタリア・トリノ。ムチに打たれ疲弊した馬車馬を目にしたニーチェは馬に駆け寄ると卒倒し、そのまま精神が崩壊してしまう。美しいモノクロームの映像は「倫敦から来た男」も担当した撮影監督フレッド・ケレメンによる。2011年・第61回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)を受賞。
キャスト: エリカ・ボーク、ヤーノシュ・デルジ 脚本: タル・ベーラ、クラスナホルカイ・ラースロー 撮影: フレッド・ケレメン 音楽: ビーグ・ミハーイ(映画.com)

左右のバランスの悪い荷車を、身を捩らせながら引いていた馬は、飯を食わなくなり、仕事を拒否しはじめる。どうも病気のようだ。父娘は何を仕事にしているのか分からないけれど、ジャガイモしか食わず、毎朝の水汲みぐらいしか活動していない。しかもその井戸も涸れてしまい、家を離れる決意をするのだけれど、しかし他に行き場が見つかるわけでもなく…。家の外は激しすぎる砂嵐。家の中を唯一、暖めていた暖炉も、火だねを失い、とうとう生のジャガイモにかじりつく父娘。
粗末な荷車のねじがゆるんで、ガタピシとバラバラに崩れていくかのような生活。逃げ場はない。ただ生きていかなければならない。火が消え入る暗闇のなかで、ランプの灯りもともらない。