吉田喜重『秋津温泉』(1962)

(112分・35mm・カラー・シネマスコープ・モノラル)戦争末期、岡山県の山深い温泉場で出会い、幾たびか再会を重ねる男と女。ロケーションによる豊かな風景と情念のドラマが拮抗し、さらに17年間の時の流れに、日本の「戦後」が重ね合わされる。公私にわたるパートナーとなる岡田茉莉子が、自らの「映画出演百本記念」となる本作で、吉田に監督を依頼、二人のコンビが実現する。
1962(製作)松竹大船(監督)(脚本)吉田喜重(原作)藤原審爾(撮影)成島東一郎(美術)浜田辰雄(音楽)林光(出演)岡田茉莉子長門裕之、中村雅子、日障汾沁q、小夜福子殿山泰司山村聰宇野重吉東野英治郎、吉川満子、夏川かほる、芳村真理 (FC)

結核を病んでいた長門裕之が、秋津温泉で岡田茉莉子と出会う。長門が結婚したのちも不倫関係が続き、二人は数年おきに再会を重ねる。敗戦前後の短い時間だけが二人にとっての決定的な時間であり、天皇玉音放送が流れて以降は、二人の人生は惰性にすぎなくなる(小国民世代の戦後観)。過去の充実した時間を甦らそうとして不倫をつづけてみても、むしろいまの生活の頽廃が際立つだけで、そのことに気づいた女は自殺を選ぶ。
二人きりのシーンで同じ音楽が何度も流れるのだが、あきらかに音楽に合わせて映像が撮られている。映画の本質はイメージなんだなぁ、と、つくづく感じさせられる傑作。ロケも映像も音楽も、とにかく美しい。吉田・岡田夫妻も来場、岡田茉莉子の最後の挨拶がなかなか良かった。