チェン・カイコー『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993)

香港、172分、原作・脚本 リー・ピクワー 出演 レスリー・チャンチャン・フォンイーコン・リー/グォ・ヨウ、カンヌ国際映画祭パルム・ドール

幼少期の血のにじむような努力を経て京劇のスターに成長した二人の役者が、中国近代史の激動に翻弄されながら、悲劇的な人生の結末を迎える。覇王と虞姫(項羽の四面楚歌の話)の演目が中心に据えられ、その中国的色彩感覚がとりわけ素晴らしい。
人知を超越した運命のうねりに人間は逆らうことができない、ここには悲劇がある。…と、言いたくなるし、別にそれで間違っているというのでもないが、しかしこの「運命の計算不可能性」が、中国特殊の事情によって倍加されていることは明白であろう。人は人をすぐに裏切るし、社会の安定性は極度に乏しいものでしかない。そのなかで実存の美学を貫くには、死にざまを美しくするのが一番手っ取り早いわけで、中国人の死に対するドライな感覚にはなかなか凄いモノがある。揉み手か、死か。
役者はみんな良いが、レスリー・チャンがすばらしかった。