『ヤノマミ 奥アマゾン 原初の森に生きる』

アマゾンの最深部に1万年以上、独自の文化・風習を守り続けている部族がいる。欧米人に“最後の石器人”と呼ばれているヤノマミ族だ。現在、ヤノマミ族は2万人。40〜200人で一つの集団を作り、ブラジルとベネズエラにまたがる広大なジャングルに分散して暮らしている。/私たちはその一つ、ワトリキ(風の地)と呼ばれる集落に150日間同居し、彼らの言葉を覚え、彼らと同じモノを食べながら撮影を続けた。森の中、女だけの出産、胎児の胎盤を森に吊るす儀礼、2ヶ月以上続く祝祭、森の精霊が憑依し集団トランス状態で行われるシャーマニズム、集団でのサル狩り、深夜突然始まる男女の踊り、大らかな性、白蟻に食させることで天上に送る埋葬…。そこには、私たちの内なる記憶が呼び覚まされるような世界があった。/笑みを絶やさず、全てが共有で、好きなときに眠り、腹が減ったら狩りに行く。そんな原初の暮らしの中で、人間を深く見つめてゆく。※ブラジル政府、および部族の長老7名との10年近い交渉の末、TV局としては初めて長期の同居が許されたものです。(NHKスペシャル)

胎盤とへその緒がついたままの赤ん坊は、地面にごろんと転がされたままで、傍らで母親はじっと座っている。生まれたばかりの赤ん坊は精霊であり、人間として取り上げるか、精霊のまま天に送るのかは、母親の決断に委ねられる。ワニ、サル、バクなどを食べるが、胎児は精霊なのでぜったいに食べない。子どもたちは胎児を弄って遊んでいる。男は死んだら生まれ変わって白蟻になる(白蟻は肉を食べる)。
シャーマンは存在しているが、ジュリアン・ジェインズが言うようなかたちでの(「命令を下す神々とそれに従う人間」に二分された心のあり様=〈二分心〉)非個人主義的な精神構造はやはり当てはまらないように思える。精霊をどうするかは母親に委ねられる。